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help RSS ファスト風土化する日本 郊外化とその病理 三浦展 洋泉社 760円

<<   作成日時 : 2007/09/02 19:47   >>

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第一章 のどかな地方はこの幻想である
「では、なぜ地方でこのような犯罪が起こるようになったのであろうか。その背景にはこの20年ほどのあいだに起きた地域社会の大きな変動があると思われる。それは一言でいえば、地方の都市化であり郊外化である。」「もちろん、近年の犯罪増加の『引き金』として不況があったことは間違いない。しかしここで私が指摘したいのは、引き金を引けばすぐに爆発する『火薬』が地方の土壌のなかに埋め込まれた、それが20年間の地方の変化なのだということである。」
「郊外化のもたらす問題を簡単に述べておくと、まず、郊外には生まれ育った地域と異なる人びとが集まって住む(故郷喪失)。よって、郊外という地域としての共同性が育みにくい(共同性の欠如)。他方、同じ時期に開発された郊外住宅地の住民は、年齢、所得、家族構成などが似通ってくる(均質性)。よって、小さな違いが大きな差別として感じられるため、住民間の競争が激しくなる。・・・子どもの学歴競争が激しくなる。・・・子ども中心の消費生活が中心になりがちである。しかも車がないと移動ができないので、子どもだけで遊ぶ機会が減り、親に依存した生活になるので子どもの社会化が阻害されるなど、郊外にはそれまでの地域社会とはまったく異なる問題が多く発生する。」「全国一律の『ファスト風土』が生まれ」「人びとの心をも変質させたのではないか。」
「いま地方では一人一台車がある。」「人びとは匿名性を獲得したのだ。」「そこに、近年携帯電話とインターネットが加わった。携帯電話の特徴は、まず時間や空間の制約を超える点だ。そして、パーソナル化」「これらの特性は犯罪を誘発しやすい。」「悪所が偏在しているともいえる。悪所と普通の場所の区別が曖昧になっている」

第二章 道路整備が犯罪を助長する
「街の中心が空洞化し、人、物、金すべてが郊外に分散する。たしかに、都市の過密が問題だったからこそ、郊外化は進んだ。だが、それは都市が空洞化していいということではない。都市には、歴史や生活文化が集積している。だから、都市の空洞化は、その都市の歴史と共に生きてきた人びとの精神をも空洞化させないか?そう問うてみる必要がある。」
筆者は空洞化した都市の代表として佐賀の例をあげる。
「実はこうした郊外化の進展が犯罪を誘発するものであることを、警察は早くから指摘していた。平成4年(1992年)版の『警察白書』は栃木県足利市を例に、以下のように分析している。」
「どんなにのどかな農村でも高速道路で他県と容易に往き来できる。だからこそ、われわれは宅配便を使えるのだし、日本中のコンビニやスーパーには毎日物があふれているのだ。その生活の基盤が高速道路網にある。しかし、われわれは道路網が犯罪者をも容易に運んでくることに対してあまりにも無頓着なのである。」

第三章 ジャスコ文明と流動化する地域社会
「佐賀にも村上にもジャスコはあった!私は心の中で思わず『あっ』と叫んだ。これはもしかするとと思った私は、新聞の切り抜きやインターネットで集めた事件記事を元に事件のあった地域をすべて調べてみた。すると、相当な確率でジャスコがあるのだ。」
危ない北関東
「『警察白書』が『県庁所在地から遠隔地にあり、県境の入り組んだ都道府県境付近の地域のうち、社会的、経済的一体性が強く一つのまとまりを持った単位を形成する区域では、県境を越えた犯罪が多く発生する』例として挙げた、茨城、群馬、栃木、埼玉の県境付近を含む『北関東地域』は、たしかに近年多くの犯罪を生んでいる。」
「事実、栃木県の刑法犯認知件数は、1993年の25329件から2003年の40469件とほぼ6割増加している」
「ジャスコ(イオンショッピングセンター)はここ数年、日本中の高速道路のインターチェンジ付近などに集中的に出店してきた。インターチェンジ付近への出店は、流通コストの削減、品揃えの強化、超広域的な商圏獲得に役立つ。出店戦略としては実に合理的である。」「しかし、大ショッピングセンターができれば、地域住民以外の人びとが大量に往き来するようになり、匿名性と流動性が高まるから、必然的に犯罪が増加し、検挙率が低下する」「つまり、人口が減少し、ただでさえ市場が縮小している地域に出店し、その地域の商業全体に占める比重を高め、競争優位に立つという戦略なのである。」「これで地元商店が生き残れるはずがない。」

歴史ある弘前は崩壊寸前

いずれにしろ、かつては大都会の一部の人間の物だった24時間型の生活が、驚くほど急速に全国の地方に広がっている。それは、遅れてはいるがのんびりしているという地方のイメージを根本から覆すものだ。地方の現実は急速に24時間化し、ライフスタイルが奇妙に都市化し、消費社会化しているのである。そこに何の問題も生まれないはずはない。

第四章 国を挙げてつくったエセ田園都市
「わが国の総郊外化・ファスト風土化には、ひとつの皮肉めいた、というより悪い冗談としかいいようのない歴史がある。それは、ファスト風土が、ほかならぬ『田園都市』の名において建設されてきたということである。田中角栄の『日本列島改造論』にも、大平正芳の『田園都市国家の構想』にも、そして1998年に国土庁が発表した『新しい全国総合開発計画』にも、一貫した通奏低音として響き続けているものが、田園都市の理想なのである。」
「田園都市国家の日常の姿は、日本中に道路ができ、道路沿いにスーパーやファミリーレストランのけばけばしい看板が立ち並び、国民が家庭機能を外部化して、ハンバーガーやカップ麺を食べることなのだ。まさにファストフードのファスト風土である。これを冗談といわずに何といおう。」
「過去30年間、日本中で、黄金色に輝く稲穂が風になびく水田が潰されてゴルフ場になり、郊外化によって歴史ある町並みが崩壊しつづけた。国土全体がスクラップ&ビルドされたのだ。そして、それはみな、『所得倍増』や『富国強兵』の名においてではなく、『ふるさと』や『地方の時代』の名において進められてきたのだ。いかに素晴らしい目標も、現実の経済原理によって別の姿に変わる。それがこれまでの歴史だ。政治家たちは、右手で地域固有の風土と歴史ある町並みを破壊しながら、左手で愛国心の旗を振るのだ!」

第五章 消費天国になった地方
消費社会化して、イカれた地方
「地方はいま格差拡大という問題をはらみながら、表面的には未曾有の『豊かな』消費社会を実現し、人・物・情報すべての面で東京都直結した暮らしになっている。」「いつのまにか、都市の住民の生活のほうがある意味リアルでまじめ、地方の農村部の住民の生活の報が地に足がつかず享楽的という変質が起きたように思えてならない。」


第六章 階層化の波と地方の衰退
「内閣府の『国民生活選好度調査』によって、収入や財産の不平等の是正が政策的に重要だと考えるかを比べてみよう。」「満足はしていないが、重要だとも思わなくなったのである。つまり、人々に不平等感が容認されつつあるのだ。」
「しかし、問題なのは、こうした格差が親から子へ受け継がれて固定化してしまわないか、また、こうした格差が地域差によって助長されないかといった点であろう。」「概して年収の高い家庭ほど教育費が伸び、低い家庭ほど減少しているのだ。「ところが問題が複雑なのは、すでに述べたように、より低い収入階級の人々が必ずしも現状を否定していない。むしろ現状を楽しんでいるかのように思われることだ。その一つの裏付けとなるのが、同じ『家計調査』による教養娯楽費の推移である。教育費は第一階級で24.5%も減少していたのに、教養娯楽費は37.4%も増えているのである。第二階級から第五階級は29%増前後であるから、第一階級が最も増えている。」「簡単にいえば、第一階級ほど勉強に不熱心であり、テレビやゲームばかりという生活が浮かんでくるのである。」
「高校生全体として学習時間が減少しているなかでも、より高い階層ほど減少幅は少なく、より低い階層ほど減少幅が大きいのである。」
「大都市部では塾、私立中学・高校が多数存在するので、ゆとり教育では不満あるいは不安な親は、金さえ出せば子どもに高い教育を施すことができる。しかし地方では、塾はだいぶ増えたが、進学校と呼べる私立は少ない。公立がゆとり教育を実施すれば、子どもの学力、といって悪ければ受験力は低下し、多様な受験教育の存在する大都市部との差が開く。」 
「昔の若者に内在的にやる気があったわけではない。30数年前まで、地方の若者にはまだ東京に集団就職しなければならない者がいた。地方の男たちは冬に出稼ぎをしなければならぬ者がいた。そうしう貧しさが外圧となって人々にやる気を起こさせていただけだ。外圧が、つまり貧しさが解消されればやる気はいらない。こうして、いま地方の若者に生きる意欲の低下、向上心の低下が起こっているように思える。」

地方ほど体験が減っている

地方の生活の方が都会よりバーチャル化している

家族で消費、レジャー施設に行くだけの生活

風土の記憶喪失
「ファストフードは、全国均質の味を提供する。安いし早いし便利だ。しかし、それはその土地の固有の歴史とはまったく無関係な味だ。」「しだいに日本中の生活が均質化し、風土性を失っている。」「それは、地方が地方としての土地の固有の記憶を失っているということだ。ファスト風土とはまさに記憶喪失の風土なのである。」

第七章 社会をデザインする地域
「たとえば、いま若者にどんな街が人気なのか。・・・吉祥寺、下北沢、高円寺といった街だ。」「まず、それらの街には多様で異質な物が存在している。豊かな社会で育った現代の若者にとっては、物がたんに大量に存在するだけでは魅力がない。自分の知らない、異質な物、店、人が多様に存在することが重要である。」「代官山や自由が丘も、若者だけではなく誰にでも人気のある街だ。その第一の理由はおしゃれさだが、同時に、戦前からある洋風の住宅、しもた屋、新しいマンション、専門店、それらが混ざり合っていることこそが街の魅力になっている。ファスト風土的郊外にはそうした街の魅力はない。」「第二のポイントは、その歴史性、つまり都市や町や村の記憶である。古い物から新しい物まで、異なる時代、異なる世代の異なる文化が重層的に存在し、街の中にそれらがモザイク的に見え隠れしているような状態こそが重要である。」「そういう多様で重層的な都市の記憶は、ファスト風土的郊外には期待すべくもない。」「また、いま若者のなかに職住が一致した商店街を好む傾向が強まっている。畳屋とか豆腐屋とか、働く人の姿が見えて、しかもそれが生活の場でもある」「第三のポイントは個人性だ。街に関与する主体としての個人の魅力が重要になってくる。郊外にあるのは大量生産品を売る全国チェーン店ばかりだ。しかし、若者が好む街にあるのは、そうしたチェーン店だけでなく、店のオーナーが好きで集めた物を、好きなように売っているような店が多い。」「第四のポイントは、歩けることである。歩くことは関与の基本として重要である。」
ニューアーバリズムの教え
「アメリカでも、大量生産的で画一的な郊外開発への反省から、この20年間、ニューアーバリズムという新しい郊外住宅地開発手法が生まれてきている。・・・第一に、自動車だけではなく電車を利用すること。第二に、ミクスド・ユース(複合的、混合的な土地利用) 第三に、公共空間を重視すること 第四に、ヒューマンスケールであること 第五に、歩けること」
「郊外開発のパイオニアであるアメリカにおいてすら、というか、だからこそ、郊外の問題を指摘し、それを解決する街づくりがこの20年間模索されてきたのだ。ところが、日本ではこの20年間に旧来のアメリカ型郊外を日本中に開発してきた。その結果、旧市街は壊滅し、都市のコミュニティも農村のコミュニティも空洞化してしまったのである。まったくバカげた話ではないか。しかも、日本のこの総郊外化・ファスト風土化が、日米構造協議以降の無意味な公共投資によって助長されてきたとすれば、バカバカしさを通り越して、怒りがこみ上げてくる。」
「最後に若干提案めいたことを述べさせてもらう。」「重要なのは、街に『働く』という行為を戻すことだ。」「住宅しかない郊外住宅地は、消費と私有の楽園である。人は自分の家族とだけつきあい、消費している。そこには健全な公共性がない。健全な公共性のない空間で、子どもが社会化することは難しい。」

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