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help リーダーに追加 RSS 現代の貧困  岩田正美著 ちくま新書  700円

<<   作成日時 : 2007/09/22 07:13   >>

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貧困に関する本というと、高校生の頃に読んだ河上肇の「貧乏物語」を思い出すが、資本主義の勃興期における貧困と、一度は一億総中流といわれるよう社会を築いた後の貧困とでは質がまったく違うのは素人の私でもわかる。この手の本は貧困の現場を紹介するルポールタージュのように思われてしまうが、実際の内容は違う。貧困の定義は何か、それはなぜもたらされたのか、そしてその解決策はどうあるべきなのか、それらを理論的・客観的に述べた本である。

第1章 格差論から貧困論へ
新しい貧困と社会的排除の「再発見」
「1980年代の欧米では、これまでの貧困とはだいぶ様相の異なる新しい貧困の『再発見』に注目が集まっていた。それは従来の労働者家族や高齢者の貧困というよりは、学校を出たばかりの、あるいはそこから落ちこぼれた若年単身者の長期失業、ファストフードや家事サービス、警備、娯楽サービスなどの新しいサービス産業に不安定な待遇で従事する女性や母子家庭、移民層などの貧困の『再発見』である。」
「市場がグローバル化し、競争が激化する中で非正規雇用が急増し、下請けなどのアウトソーシング拡大する過程で生み出されたと言えるであろう。この新しい産業社会では、金融や情報サービス産業で専門知識を武器に働く人々と、『マグドナルド・プロレタリアート』などと形容される、安い賃金と不安定な雇用で働くサービス産業労働者に二極分化しつつあるという。」
そうしたなか、ポスト福祉国家の新たな理念の模索が始まっている。「たとえば、社会から排除されている人々を再び社会の中へ引き入れて社会の二極分化を克服する社会的包摂(social inclusion)という理念や、従来の所得保障中心の福祉(welfare)から、若年失業者を再び労働市場へ参入させようとするワークフェア(work fare)への転換の強調などがそれであり、いずれも、この新しい貧困の克服を課題としている。」
ところが、日本では貧困へのまなざしが高度成長とともに忘れられてしまう。「だがその後は、欧米の福祉国家で見られたような、しつこいほどの貧困の『再発見』とこれへの政策対応をめぐる議論はほとんど起こらなかった。日本では、高度経済成長と国民皆保険・皆年金体制の確立によって貧困問題は基本的には解決した、とほとんどの人が信じ、『総中流化』の中で、戦後復興下の格差と貧困に警鐘を鳴らした厚生省(当時)も含めて、きれいさっぱりと貧困問題の追及をやめてしまったのである。」そうしたなか、欧米のホームレスに比べると「日本のホームレスも貧しい人々も、信じられないくらいにおとなしい。まるで貧困が自分の非であるかのように『声』を出さない。」

第3章 現代日本の「貧困の経験」
貧困者の割合について、生活保護基準を用いた駒村・星野氏の研究と、OECD相対貧困基準を用いた西崎・岩田氏の研究がある。「いずれも、家計簿方式で収支を把握する全国消費実態調査を用いている」「駒村推計では、バブル期の89年を除くと、3回ともだいたい8%程度の世帯が貧困に区分されている。この8%に国勢調査の一般世帯数を掛け合わせると、2005年では390万世帯が貧困ということになる。」「ところが、新聞報道などで気づかれた方もあるだろうが、OECDによる加盟国の貧困率の報告では、日本の貧困率の増加が強調されている。」「20ヶ国全体の平均が10.4%なのに対して日本の貧困率は15.3%で、5番目に高い。」
貧困ライン以下の人々の年齢や世帯の特徴だが、「まず世帯主で見ると、その数は年齢の高い若い層と高齢層で多くなっており、U字カーブを描くように貧困が分布していることがわかる。」「単身世帯の貧困率がきわめて高く、94年には単身世帯の4分の1が貧困となっている。駒村氏は単身世帯の場合、特に40歳以上で急激に貧困率が高まっていることを指摘している。」「就業しながらも貧困な世帯、つまりワーキングプアが単身女性で15%、女性世帯主(多くはシングルマザーの世帯)で18%と高いことなどが明らかにされている。」

貧困と結びつくリスク
「コーホートA(93年に24〜34歳、94〜02年までのデータのある人、女性である)の9年間のデータを用いて、持続貧困と慢性貧困を固定貧困とし、このグループと一時貧困、安定の三つのグループそれぞれについて、9年目である2002年当時の職業、学歴、家族状況などの特徴とどう関連しているかを確かめてみた。」「まず職業との関係では、本人が常用雇用の場合は安定が多く」「本人の学歴と貧困経験の関連はきわめて明瞭で、学歴タイプごとに貧困経験のタイプが異なっている。」「配偶関係では、配偶者のいる女性に比べて、配偶者のいない女性の方が固定貧困が多くなっている。無配偶者の家族類型では、『子と同居』の9割以上で貧困経験があり、そのうち半分が固定貧困である。」「この貧困タイプは資産状況とも一致しており、貯蓄残高は安定層で最も高く平均523.4万円、一時貧困層はその約半分の237.1万円、固定貧困層は31万円と格段に低くなっている。」
「現代日本の貧困は、バブルの崩壊やその後の非正規雇用の拡大を背景として増加してきたことは確かであろう。しかし、以上のことからも分かるとおり、就業形態や貧困形態、世帯類型などが標準モデルから外れることと、貧困との結びつきが強いのである。」

第4章 ホームレスと社会的排除
「路上のホームレスに着目して、普通の統計では『落ちてしまう』貧困を再発見する意味を検討し、困難な調査から把握されたその実態から、現代日本の貧困を捉え直してみたい。」
「その兆候が、本格的な『問題』に発展していった様子は、新宿区の『生活相談』の統計を見ればよく分かる。この『生活相談』というのは、相談というよりは、カップ麺(現在は乾パン)などによる応急援護であり、当時の課長の言葉でいうと、ともかく餓死者を出さないための『人道支援』だった。新宿区役所の相談述べ件数は91年頃までは3千人台で推移していたが、94年度には4万人強、95年度は約9万人、97年度は10万人を超えている。」「全国主要都市のホームレスは、98年には1万6千人、99年には2万人、2001年には2万4千である。03年には、国が統一的な方法による概数調査を試みるところまできており、2万5千人という数字が報告されている。」政府の調査の数字は少なめになりやすい。
「『増えた』『減った』ということだけではなく、ホームレスという形の貧困が、どのような意味を持っているのかを問うことが大事である。日本に先んじて『豊かな社会』におけるホームレスが問題になった欧米では、これを『ニュー・ホームレス』と呼び、社会的排除という貧困に代わる新しい概念や、かつてのアンダークラスという概念を使って説明しようとした。」「『ニュー・ホームレス』という言葉は、若年者や家族、さらには女性を含むホームレスが出現してきたことを表現している。」「社会的排除という概念が強調しているのは、豊かな国々おける福祉体制が、グローバリゼーションやポスト工業化が進展する新しい時代とマッチしなくなったために、労働市場にも入れず、社会福祉制度も利用できない人々が生まれている、ということであった。つまり、第二次大戦後、福祉国家の道を歩むことで社会統合を行ってきたヨーロッパ各国にとって、社会的排除は、国家の社会統合の危機と同じ意味を持っていたのである。」「80年代ヨーロッパにおける社会の大がかりな変容は、10年遅れでバブル崩壊後の日本にも生じている。」
「オダさんの話にあるように、ホームレスの人々はできるだけ仕事を探して、現金収入を得ようとしている。」「これ以外にも、ホームレスの人々は雑誌集め、銅線や空き缶拾い、野球場などのチケット購入のための行列要員、引っ越し作業などの日雇い仕事など、さまざまな仕事をしている。だが、そうした仕事による収入は限られているし不安定でもあるから、先にも述べたように生きていくために必要なモノを『拾ったり』『貰ったり』するしかない。」
「路上生活者として定義される日本のホームレスの最も大きな特徴は、中高年男性に集中している点にある。・・・6割近くが義務教育までの学歴程度で、未婚率も高い。」
この人が仕事に就いていたときの状況に関し、「最長職では4割の人が工場の生産工程や建設などの技能工である。このほか、同じ建設業の非熟練職種である土木作業や雑役、あるいはサービス業などの経験者が多い。」
ホームレスの分類
@安定した常用職からホームレスになったタイプ・・・安定型
A少なくとも直前には職場の提供する労働宿舎(寮や住み込み)に単身で住むようになったタイプ・・・労働宿舎型
B長い間不安定な職業を転々としてきたタイプ・・・不安定型
「中高年になってからも宿舎を転々とする生活を長く続けることは、『私生活』の基盤をしっかり確保し、さまざまなチャンネルから社会と関わる契機も失わせてしまう。それだけではない。仕事を失うことは即、住居を失い、社会との関係を失うことにもなりかねない。その意味で労働宿舎は、日本の路上ホームレスの重要なルートの一つとなっている。」

第5章 不利な人々
「『不利な人々』とは、どのような『状況』を抱えた人々なのだろうか。」
「その一つは低学歴である。」「中卒者は減少しているのだが、失業者に占める中卒者の比率は高い。25〜64歳までの完全失業人口のうち中卒・未就学の割合は22%である。」「中卒・高校中退者に比べて大卒者では正社員比率が50%以上も高く、逆に前者では無職で何もしていない、いわゆるニート比率が高いこ
とが示されている。」
「結婚と就業の経験もまた、その後の人生の『不利』『有利』と関連する『状況』を作り出していく。」「『未婚継続』と貧困には強い結びつきがある。」「現在の年収と既婚率には明らかな関係があった。」「たとえば20代男性は年収500万円を超えると、30代男性は年収300万円を超えると、既婚率が50%を超える。」
「離婚はどうであろうか。これについても、貧困が離婚という『状況』をより多く作り出す面と、離婚という『状況』が貧困を招くという面の二つが考えられる。」「未婚のままで子どもを育てなければならないシングルマザーが貧困に陥りやすいという点には注意が必要である。」
「今のところ、同じ職場で働き続けることと安定層とは関連があり、離職や転職の経験が貧困と結びついていることが分かっている。」
「貧困は、特定の『不利な人々』に集中するだけでなく、地域による偏りも大きい。」
「『低い入り口』の一つが、先に述べたような労働宿舎である(と同時にそれは人々を貧困に縛りつける”装置”でもあった)。このほか、大都市の木造老朽アパート群や『寄せ場』、簡易宿泊所や繁華街の娯楽施設などが『低い入り口』として機能することがある。『不利な人々』は、大都市のこうした場所に集中しやすいのである。実はホームレスなどの出現にも、こうした『低い入り口』と関係がある。」「『不利な人々』が地域社会から排除され、『不利な人々』ばかりが集中する場所へと追い立てられていくとすれば、日本でも貧富による地域の色分けがもっと進むかもしれない。」

第6章 貧困は貧困だけで終わらない
「貧困問題がやっかいなのは、それが貧困だけで終わらないことだ。」「たとえば貧困が病気と深い関係にあることは昔からよく知られている。」「また、ある時期までは多くの人々が、貧困を背景として非行や犯罪が生まれてくると考えていた。」「だが、こうした貧困と社会問題の関係が、今日の日本社会で言及されることはほとんどない。むしろ多くの社会問題は、貧困ではなく豊かさの結果として生じていることが強調されている。」
「このため、実は貧困が依然として多くの社会問題と結びつき、その解決を遅らせているということに気づかない。」
ホームレスの冬期臨時施設での検査の結果によれば、「95年と96年を合わせて臨時施設で活動型結核と診断されたのが8.5%、同じく深津同型結核と診断されたのが3.8%、ちゆしたものと診断されたのが15.8%であった。」「ホームレスになってから一ヶ月未満の人たちで結核の発見率が非常に高く、学歴が低いほど医療を必要とする患者が多くなると指摘している。」
「中西氏は、生活習慣病の罹患率が更生施設利用者で高い理由について、若いときからの不規則でアンバランスな食習慣、アルコール問題、ストレスなどが影響しているのではないかと指摘している。」
児童虐待に関して、「山野氏は、『中学卒業のみで社会に出てしまった保護者たちが、かなりの数を占めていることが気になる』と述べ、この豊かな社会の中で、長時間労働にもかかわらず、『綱渡りのように』日々の生活をかろうじて送っている親たちのストレスや、狭い住環境の中での家族関係の悪化が暴力につながるのではないかと警告している。」「貧困が単に貧困だけで終わらないこと、現代日本で『不利な人々』は貧困とはまた別の問題を同時に背負って生きて行かざるをえないことが分かるのではないか。別の言い方をすれば多くの社会問題は、貧困問題の解決を視野に収めないとアプローチできない部分を、かなりのところ持っているのである。」

第7章 どうしたらよいか
「日本も含めた先進諸国には、市場経済が生み出す富の格差を是正する福祉国家の諸制度がある。もしこの諸制度が十分に機能していれば、市場で『不利』になった人々にもやり直しの機会が与えられ、特定の人々ばかりに『不利』な『状況』が集中するようなことは経るかもしれない。ところが、この福祉国家の制度自体が、ある人々には『有利』に働き、別の人々には『不利』に働くなら、特定の人々を貧困から抜け出せなくする役割を、こうした制度自体が果たしてしまうことになる。」「『不利な人々』の存在は、その福祉国家が健全な機能を果たしているかどうか、制度に歪みがないかどうかを測るリトマス試験紙としての意味を持つことになる。これまで述べてきたことからすると、日本の福祉国家の仕組みは、高学歴かつ正規雇用者で資産も家族もある人々には『やさしい』一方で、低学歴で未婚もしくは離婚経験があって非正規雇用で転職も多く、資産も家族もない人には『やさしくない』と見ることができる。」
「日本は、所得再配分によって貧困が是正されることが少ないことで定評がある国なのだ。」
「問題点の一つは、社会保障の『保険主義』にある。」「低所得者にとって保険料の支払いは大きな負担となるし、その割に給付はそれほど多くないわけだから、社会保険に入らなくなる人々も出てくる。国民年金の空洞化はその一例だが、」「もちろん、税による最低生活保障の仕組みとしては生活保護制度がある。」「だがこの制度は、働ける年齢層にはきわめて厳しく、」「一方で保険主義が徹底され、他方で、生活保護のような扶助が軽視される背景には、自己責任主義が、国や企業だけでなく国民の間にも広く行き渡っている、ということがあろう。」
「『不利な人々』が低学歴と結びついていることは、再三強調してきた。これらの人々の『学び直し』の機会や、仕事に就くための教育訓練機会の提供については、現在、緊急の課題として政府に取り上げられている。」「それらの教育プログラムの多くはまだ構想や試行段階だが、一つの問題点としては、そうしたプログラムを無料で受講でき、しかも受講期間については生活保障があるという制度設計になっていないということ、」
「逆方向を向いた社会保障改革を断行するのは、経済さえ活性化すれば貧困も格差もどこかへいってしまうという楽観的すぎる思いこみがあるからだろう。だがもちろんそうなる保証はどこにもない。」
「富裕層と貧困層への分裂が社会の安定を奪う例は、地球上で数多く見いだされる。」「社会的包摂という新しい理念による貧困対策は、明らかに社会それ自体の救済を意図しているのである。」

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