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help リーダーに追加 RSS 子どもの最貧国・日本 学力・心身・社会におよぶ影響 山野良一 光文社新書 820円

<<   作成日時 : 2008/10/04 05:23   >>

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貧困な家庭で育つ子どもたちの問題を真正面から取り上げた本である。著者は児童福祉司として働く方で、現場の経験が随所で語られている。筆者が強調していることは、家族の貧困を放置し、子どもたちの健全な成長が妨げられている現状を放置するならば、適切に対処しようとする場合に比べ、はるかに多くのコストを社会が負わなければならないということである。もちろん、失われる子どもたちの才能がもたらすマイナスも計り知れない。

「(アメリカで)さらに、深刻なのは、豊かな人たちと貧しい人たちは多くの都市では同じ地域で共存していないということです。こうした分離(セグレゲーション)の世界では、豊かな人と貧しい人たちは、日々ほとんど接することなく生活しています。住む地域が違うだけでなく、買い物に行くスーパーも異なり、子どもたちの学校も異なります。話す言語すらも、同じアメリカン英語なのに相当違いが見られます。」
 「日本は、00年の時点でも、子どもの貧困率はかなり高くなっていました。私が、さらに気になってならないのは、国としての、政府としての、また私たち市民としての、子どもたちの貧困に対する関心の低さです。」
(1)を80年代中ごろから90年代中ごろと、(2)を90年代中ごろから00年までとすると「(1)と(2)の両方の時期に子どもの貧困率を上昇させているのは、実は日本とニュージーランドだけなのです。」
 「日本のひとり親家庭の親御さんたちは、生活状況を改善しようと頑張って仕事に従事しているにもかかわらず、『働けどわが暮らし楽にならざる』的な奇妙な状況にあると言えるわけです。そのことが、主要先進国の中では、並外れたひとり親家庭の貧困率の高さをもたらしているのです。」 「『OECD日本経済白書』によれば、子どもを持つ貧困家庭の98%が労働に従事しているのです。OECD全体の平均では、この数字は68%にしかなりません。」
 「北欧諸国が子どもの貧困率を低く抑えられているのは、こうした政府の介入による福祉の充実が大きな要素であることは確かですが、それを支える人々の平等意識や連帯感の強さもよく指摘されることです。」
 「日本では政府の介入は子どもの貧困率を下げることにはほとんど寄与できていないどころではなく、逆に介入によって貧困率が上がっているのです。」
「日本全体も、長い間、身分や社会的な階層ではなく、その人の努力によって学校の成績や社会での成功がもたらされている社会だと信じられてきました。このような業績主義的な考え方は、至極当たり前に見えます。先にも述べたように、こうした考え方は、高学歴のお金持ちの人だけが持っているのではなくて、今貧困状況にある多くの人たちも受け入れています。そして、自己責任論から自分の貧困状況を自分の努力不足のせいにしてしまっているのです。」
 「彼らに欠けるのは、実は人的資本だけではなく、頼りとなる友人や親類がいないことが多く、社会的なサポート(経済学で言う「社会関連資本」)にも欠けています。結局、そうした状態にあると、ちょっとした周囲の環境(ゲームのルール)の微妙な変化に、そうでない人々以上に深刻な影響を受けてしまうのです。」
 「貧困の文化論の代表的な研究者、オスカー・ルイスは、50年代から60年代にかけて、メキシコやプエルトリコの貧困な地域に住む人々、ニューヨークに移り住んだプエルトリコ人などの生活を、文化人類学的な方法論(参与観察と生活史法)によって研究しています。そのなかで、彼は貧困な人たちに共通して観察されるにもかかわらず、中流以上の人たちには見られないいくつかの行動パターンや、そのバックにある価値規範や特徴を見出し、それを『貧困の文化』と名づけたのです。たとえば、ルイスによれば、貧困の文化のなかで育ちあがった人々は、自我が弱く、疎外感や絶望感、劣等感を持ちやすい、現在の楽しみのみを志向し将来に対する備えをしない、衝動性のコントロールに欠ける、権威主義への強い志向、依存性の高さ、怠け癖などの心理的な特徴があると記しています。また、人生のなかの子ども期の欠如や早期の性的経験、妻や子どもを遺棄することの多さなども見られるとしています。また、ルイスは、貧困の世代間連鎖を考えるにあたっても、貧困の文化論は重要であると位置づけます。」
 「ルイスが唱えたような、貧困な人々の文化的・心理的な傾向に貧困の原因を帰してしまう方法では、結局、個人の性格などにのみ焦点が当たってしまい、社会階層や民族差別や性差別といったものが、個人の日々の生活にどういった影響を与えているかということを捉えることは無理だったのかもしれません。」

学力格差と児童虐待
 「この研究からは、モデル1とモデル2の数字を比較することから、保護者の学歴期待や世帯の所得などの家庭背景の指標が、子どもの学力を規定する上で重要な要素になっているということが分かります。」「子どもの努力による学力の効果というものは、家庭背景の影響のもとに生み出されていた可能性を示しているのです。」「つまり、社会的低階層の子どもたちと社会的高階層の子どもたちの間には、学力獲得にあたって、スタート時点における家庭背景という明らかな差が見られるのです。同じ学力レベルに到達するために、社会的低階層の子どもたちはより多くの努力を必要としていることをこの研究は示しています。」「しかし、ここで大切なのは、少なくともこの研究では所得に比べ学歴や職業の影響力が少ないとされる点です。」「親の学歴・職業の影響が大きいか、親の所得の影響が大きいかという議論は、細かな話のようにも思えるのですが、実は貧困と子どもの学力の関係を見ていく時に重要な意味があるのです。一つには、2章で見た『文化的なもの』(親の学歴・職業)対『経済的なもの』(所得)の議論がここには隠れているのです。」「仮に親の学歴などの文化・習慣の問題の方がより強く関連性があるのであれば、親に対する子育て指導などの教育的な援助がまず必要となるし、経済的なものがより強く関連しているのであれば、親の所得をどう増やすかを第一義的に考えていかなければなりません。」
 「東京都福祉局は、平成15年度に児童相談所が児童虐待と判断したすべてのケースの1447家庭(きょうだいによる重複を除く)を分析し、ひとり親家庭(31.8%)、経済的困難を抱える家庭(30.8%)が多く、その割合も3年前の調査と比べ明らかに増えていると報告しています。」
 「結局、リンゼイや、その盟友であるベルトンは、児童虐待を予防するためには、まず子どもたちの貧困の問題に積極的に取り組むことの方が先決であると主張するのです。」「ところが、アメリカは国家として家庭福祉全般へはあまり多くのお金を使おうとはせず、児童虐待の施策のみに膨大な資金とエネルギーを注ぎ込んできました。毎年、100億ドル(日本円で約1兆円)以上の予算が児童虐待問題に使われています。そうした施策の行き違いや「ずれ」が、結局児童虐待問題を複雑にさせ、解決の糸口を見いだせない状態にしているのかもしれません。」

脳・身体・こころへの影響
「貧困であると低体重で生まれやすく、低体重状況で貧困であると、子どもの発達はより深刻な問題を生じることになってしまいます。このように、貧困という問題は、一つのリスクがさらなるリスクを生む、問題がさらなる問題を生むという点が一番やっかいなことだと思うのです。」「貧困は、ひとつの影響のみを子どもたちに与えるのではなく、彼らの人生に関わる複数の点でさまざまに影響を与える、しかも、それらの影響は相乗的にかつ重層的に作用し問題を複雑に組み合わせてしまう。」「これまで、人間の脳は生まれた時にほとんどでき上がっていると思われていたのですが、実はそうではなく、誕生後のさまざまな刺激の欠如や環境の問題によって、乳幼児の脳の発達が阻害されてしまう場合があるということがわかってきています。」「乳児期の鉄分の欠乏は、乳児の脳の発達に重篤な影響をおよぼす栄養失調の非常に顕著な例のひとつですが、アメリカの研究では、貧困な家族の子どもほど鉄分の欠乏が起きやすいことがわかっています。」「貧困状況におかれた家族の生活困難や、病気やストレスに晒されやすいという生活条件が、とくに乳幼児の脳の発達に大きな影響をおよぼしているとしたら、この時期にどのようにして貧困な家庭を援助するかは、子どもたちの長い人生を左右しかねないほどの重大なことかもしれないのです。」
 「家族の所得の影響は、子どもの年齢が低い時には大きく、思春期には影響がいったん少なくなり、再度成人後の結果に大きく反映すると言うのです。」「小学校入学以降に影響が薄まるとしたら、学校が果たす役割の大きさを暗示しているのかもしれません。」
 「知的な能力と貧困状況の相関関係は直線的にはならず、低所得層のところで傾斜が大きくなるのです。このことは、子どもたちの情緒的な側面でもあてはまりますし、さらには子ども時代の所得状況と成人後の所得状況との関連性においても見ることが可能です。」
 「単に貧困であるかどうかだけではなく、どの程度に貧困であるかという貧困の深さが子どもたちの発達に大きく影響していることがここから推論できます。」
 「貧困な家族においては貧困でない家族以上に、所得の変化によって子どもたちの発達が上下することがわかりました。」「このことから、ディアリングらは家族の収入の増加(自然に増加するものであれ、社会的な介入によるものであれ)が、貧困な家族の子どもたちの発達にポジティブな変化を与える可能性を示唆しています。」

貧困が子どもたちを蝕むプロセス
親たちが感じる経済的なストレスを強調する家族ストレスモデルに対し、「家族投資モデルは、家庭内の教育環境や親たちの子どもへのかかわりの程度による違いを媒介することによって、家族の所得が子どもたちの発達に差をもたらしているのではないかと理論づけるものです。」
 「たとえば、3歳から5歳の幼児について、子どもの発達状況に適した本を何冊持っているかどうかを親たちに聞いた質問については、貧困でない白人の場合は93.4%が10冊以上持っていると答え、貧困な白人の場合は55.4%がそうだと答えました。ところが、貧困な黒人やヒスパニックの子どもたちのうち10冊以上そうした本を持っているのは、わずか4割以下となってしまうのです。親たちが読み聞かせたり、博物館に連れて行くなど、子どもたちの学習を促進する機械についても似たような差が出ています。」
 「子どもが10歳から14歳である場合は、親たちの体罰的傾向に貧困状況で違いが見られます。」
 「家族投資モデルとは別に、住居の狭さや公害等周囲の環境を含めた家族の居住環境に注目する研究者がいます。」「私は、日本でも、こうした狭い住環境の問題は、貧困な家庭においてかなり深刻な影響を子どもたちに与えているのではないかと日常の仕事のなかでずっと感じてきました。また、そのことがとくに日本では、児童虐待と貧困の関連性を深める大きな媒介因になっているように思えてならないのです。」

各国の貧困対策に学ぶ
「多くの先進国の流れからも、そして理論的にも、子どもの貧困に対して社会的に投資することが、どうやら子どもたちだけでなく社会全体にもプラスの影響をもたらすことが少しずつ見えてきます。」

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