もし野球部の女子マネージャーがドラッガーの「マネジメント」を読んだら 岩崎夏海 ダイヤモンド社 

1600円
 今は文系では経営学部、とりわけ経営学科が大人気である。景気がよくない現在の日本でも成長を続ける企業はあり、そうした企業はもちろん独自の経営戦略を立てて成果を上げているのである。だから経営学は光を放ち、我々に希望を感じさせるのだろう。ピーター・ドラッガーとその著書について、本書のなかには次のように記されている。「1909年(今からちょうど百年前!)にオーストリアで生まれた20世紀最高の知性の一人といわれるピーター・ドラッガーが、1973年、彼が63歳の時に著した『組織経営』についての本である。これによって、いわゆる『経営学』が始まったといわれ、それゆえ、彼は『経営学の父』とも呼ばれている。」自分自身の読書傾向とは大きく異なるドラッガーのこの本のことを最初に知ったのは、確か数ヶ月前のNHKニュースのなかの特集でだった。今から40年近くも前に出版された経営学の本が今もたくさんの人に読まれ続け、しかも新たな感動を広げているという内容だった。そして、紹介されていた「人は資産である」という表現が、あたかも人をモノのように軽んじる現代の資本主義とは一線を画する新鮮さを感じさせた。私自身経営学に関する本はほとんど読んだことがなくても、共鳴できるものがその本のなかにありそうだった。 さてこの本だが、本の帯にはこうある。「新人マネージャーと野球部の仲間たちがドラッガーを読んで、甲子園を目指すという青春小説」。だから、本書の随所にドラッガーの本からの引用が見える。たとえば、本書の半ばには次のような引用がある。「マネジメントには、自らの組織が社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題の解決に貢献する役割がある。」文章の前段が指す内容の理解は簡単ではないが、後段はわかりやすい。企業はその利益の増大と存続を目指して運動する組織体だということは誰でもわかっている。しかしそのためには、企業の活動が社会の問題の解決に貢献していなくてはならないのである。地球温暖化、少子高齢化、非正規雇用の増大にともなう若者の苦難、今や私たちの社会の行く手には様々な問題が横たわっている。しかし、そこにこそビジネスチャンスがあるという言い方が説得力を持つのは、こうした文脈のなかであろう。現にこうした問題について積極的に取り組んで、成果を上げている企業はたくさんある。電気自動車の開発に力を注ぐ自動車会社や、中国をはじめとする国々に公害防止技術を売り込む企業など、わかりやすい例はたくさんある。
女子マネージャ「みなみ」は、この観点から野球部による校内清掃をはじめた。しかし、これは自分たちでも今ひとつ評価できない活動だった。そのとき、陸上部からの求めがあった。みなみたちの活動によって、この時点で野球部は以前とは比べものにならないくらい活性化していた。その方法論を問われ、コンサルティングを依頼されたのである。これによって活性化したのは陸上部だけではなかった。さらにみなみたちは、学校内の問題児たちを集めてマネージャーにし、マネージメントをより手厚くすると同時に目標を失いかけていた仲間を野球部の活動に巻き込んでいったのだ。そのほかに、少年野球への協力などもあった。それが、夏の大会の応援という形で野球部にも返ってきたのである。
 それと似た観点で、次のような引用にも注意しよう。「真のマーケティングは顧客からスタートする。『われわれは何を売りたいか』ではなく、『顧客は何を買いたいか』を問う。『われわれの製品やサービスにできることはこれである。』ではなく、『顧客が価値ありとし、必要とし、求めている満足がこれである』と言う。」みなみは、野球部にとって顧客とは何かを真剣に考え、それを見つけ出し、野球部の活動に生かす。野球部の顧客が何であるかは、この本を読んでのお楽しみということにしたい。
 さて、ここまで比較的経営学との関連からこの本を見てきた。しかし、この本はそういうことを抜きにしてもおもしろい小説である。無能を指摘された日本サッカーが見事にワールドカップ予選を勝ち抜いたように、努力や工夫、そして少しばかりの精神性によってそれまでなかった力を発揮することができるのがスポーツのすばらしさだ。この本の某都立高校野球部もそんなスポーツの魅力を感じさせてくれる。果たして甲子園に出場できるのかどうか、それはこの本を読んでのお楽しみである。それにしても、どんな野球をしたいかスポーツ記者に問われたキャプテンが次のように答えた場面は、この本の経営学入門書でもありたいという性格をよく現している。「あなたは、どんな野球をしてもらいたいですか?」「ぼくたちは、それを聞きたいのです。ぼくたちは、それをマーケティングしたいのです。ぼくたちは、みんがしてもらいたいと思うような野球をしたいからです。ぼくたちは、顧客からスタートしたいのです。」



プロフェッショナルの条件—いかに成果をあげ、成長するか (はじめて読むドラッカー (自己実現編))
ダイヤモンド社
P・F. ドラッカー

ユーザレビュー:
「自分で考える」こと ...
よくまとまっていて読 ...
行き詰まった時こそ、 ...

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ商品ポータルで情報を見る

マネジメント - 基本と原則 [エッセンシャル版]
ダイヤモンド社
P・F. ドラッカー

ユーザレビュー:
女子高生よりサラリー ...
まさに、教科書自分の ...
基本であり、すべて。 ...

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ商品ポータルで情報を見る

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック